自己紹介/Introduction

瀬戸慧大/Keita Seto

電気工学で学位をとった物理理論屋(理論物理学者とは言いがたい)

2004年に新設(合併)された兵庫県立大学工学部に入学.

2004年に新設(合併)された兵庫県立大学工学部に入学.

高校時代の授業は何を伝えたいのかは全く理解できなかったが、微積分を習い始めたあたりから高校数学が分かるようになり始めた.受験の直前で物理教諭が回路の問題を微分方程式で解く方法を披露したあたりから数理処理の凄さを知った気分になり私の人生は狂い始める.

このことを受けて県立大学では電子情報電気工学科に在籍し、当初は回路網の技師になることを目指した.

大学院の入試情報を見てみようと学部2年生くらいのときに目標にしようと思っていた研究室のHPを見て唖然とする.回路が細かすぎて目が痛い!脳みそ云々の前に身体的にこの分野は向かないのではないかと考えるようになる.

 

当時はまじめに電磁気学を勉強しており、わりと頻繁に大学図書館に入り浸っては次に買うべき教科書を物色していた。図書館で次に学ぶべき本を探していたところ、たまたま電磁気学のコーナーの隣にプラズマ理工学のコーナーが設置されており、ぺらぺらページをめくったところ電磁気学だけできればプラズマ物理も制覇できるんじゃないかと楽観的に考えるようになる.

幸運にも県立大学にはプラズマのグループも存在していた.たぶんこのあたりから研究者人生を歩みだす.

 

4年生からの研究室配属で磁場閉じ込めのプラズマグループ(永田グループ)に所属する.

 

ヘリシティ(素粒子のヘリシティではない)注入というトーラスプラズマを維持するためのエネルギー注入法をグループをあげて調査していた(はず).プラズマにおけるヘリシティは磁力線群の絡み度数を言っており、磁力線が繋ぎ変わるときにエネルギー輸送ができる、というシナリオだったと記憶しています.今、思い返してもこの研究は難しいテーマだった。

 

3年生のときにArnordの”古典力学の数学的方法”の本を手にとって以来、理論的な手法に傾倒していた.山本の解析力学の本の影響も大きかったと思う.残念ながらこのグループは実験グループで自力で式を生み出すことは難しいのではないかと考えるようになった.

 

せっかくなのでオリジナルの式を作れるようになりたい.

 

そう考えていくつか進学先の候補を探していると阪大に理想に近い研究方法で著名な三間先生がいらっしゃることを知り、弟子入りすることを決意した.

 

2008年、大阪大学大学院工学研究科に入学する.

電気電子情報工学専攻に入学した.

配属先は大阪大学内のレーザーエネルギー学研究センター(レーザー研)の三間先生(理論)・長友先生(シミュレーション)のグループに入ることができ希望通り弟子になることができた.今思えばこの研究室が理学部物理学科の所属でなかったことは私にとっての幸運だった.そうであれば恐らく大学院受験は諦めたことだろうと思う.このレーザー研はレーザーを使った核融合を目標としている研究所で、私自身も当初はそれを目指していた.そして指導教官となった両先生も私の研究テーマはなにかこの問題を引っ掛けたものをと考えていたはずだ.

1年目の夏ごろに研究指導ということで”プラズマの中で光を放つ粒子群の効果をシミュレーションするときにどういう法則を組み合わせればよいか?”という課題を与えられた.

確か初めて答えをもって行った時は光のエネルギー輸送式を作って持って行ったように記憶している.答え合わせということで教えていただいた手法はいわゆる遅延場の導出方法だった.単一電荷を湧き出しとしたMaxwell方程式をゴリゴリッと解いて得られるものが遅延場で、実はこれを変形していくといわゆる放射の反作用の式が手に入る.この放射の反作用の効果(外力として運動方程式の項を増やすだけで表現できることになっている)をプラズマ計算であるPICという手法に組み込むことが私の研究テーマ…になるはずだった.

 

不勉強が仇となりこの数値計算で放射の反作用を処理することは難航を極めた.

 

オリジナル模型のLorentz-Abraham-Dirac方程式は簡単に解ける方程式ではなかった.今だから言える話だが、この方程式は何をどうやってもこのままでは数値計算に使うことは出来ない.これは理論的な解析からも明らかな問題で、通常はLandau-Lifshitzの近似と言うのを使って誤魔化しごまかし解くというのが定石である.高エネルギーの粒子はLorent-Abraham-Dirac方程式がLandau-Lifshitz方程式に漸近し、まれに初期値をうまくとれば計算が正しくまわることがあった.

とてもプラズマに組み込める状況ではなく、1粒子、2粒子の系で解ける範囲で数値計算を行い何とか修士号をいただいた.

 

 うまくいかなかったという挫折を残して…

 

2008年、大阪大学大学院工学研究科の博士課程

修士課程での式が常にうまく計算できないという挫折はちょっとした発想の転換を私に与えた.

 

「そもそも基礎方程式が良くないのではないか?」

 

ここから私の放射の反作用のモデルメーカーとしての人生が始まった.

実は放射の反作用の研究の裏で世界は高強度レーザーの建設計画ラッシュが始まっていた.

阪大レーザー研では1PWのレーザーであるLFEXレーザーを導入した直後だったがさらに次世代のレーザー計画があり、放射の反作用を学ぶモチベーションは申し分ない環境であった.

とりあえず、数値計算できる式を手に入れて博士号をいただくことは出来たが、あまりにも人工的な手法で美しい定式ではなかった(これも今だから言えることで、当時は俺はやったぞ!と思っていた).後に自らの手で物理過程を追加して(高次補正)安定化することができた.

 

2013年~レーザー研でポスドク

学位をとれてしまったものの自分の中ではもっともっと良い定式化があるのではないかと卒業式後も悩み続けていた.雑務におわれ始めた中で、ふとしたときにそれは解消されることになる.

一つ目の契機は奮発して購入した西島の場の量子論(紀伊国屋)の中の一節が私の心を掴んだ.それは素粒子をやる人が避けては通れない「くりこみ」のオリジナルなアイディアを記述したものだった.電子の質量と電荷量は我々が使う定数は最後の最後で修正する必要がある、というのは知っていたのだがその解説がとても素晴らしいものだった.電荷量の変化は真空の誘電率の値が変動することに相当するというものだった.確かに放射の反作用を解く時に誘電率を調整するということはやっていなかったのでもし時間変動するのであれば新たな自由度になりうる.しかし一方で問題はどのような関数がふさわしいのかという問題だった.

同じタイミングで学位をとった友人が奇跡的にレーザーを用いた真空からの光輻射を調べていた.量子電磁力学的には真空には電子陽電子対の生成消滅が含まれており、それゆえにダイポール輻射が可能というもので、つまり真空の分極というものにフォーカスしたものだった.それはHeisenberg-Euler Lagrangianという模型を使用していたのだが、これでお題目がいくつか整ったことに気づいた.

つまり放射の反作用は量子的な真空の揺らぎ(Heisenberg-Eulerモデル)を導入してやれば量子的な新しい補正を追加できるとふんだ.

 

幸運にもこれが安定化のための解だった.

Stabilization of radiation reaction with vacuum polarization

 

2014年~ELI-NPでポスドク

高強度レーザーの建設ラッシュは

Extreme Light Infrastructure (ELI)

というヨーロッパにおける高強度レーザーの研究インフラに具体的な予算がついてしまった (?) ことに由来する.私が修士課程で今で言うこの ELI のパラメータで数値計算をしたところ色々な先生に「ぶっとんだパラメータで計算したな」と茶化されたものだが、博士号を取得するまでの5年のうちに現実のものになっていた.

阪大でのポスドクの1年目に ELI-NP 基礎物理部門の実験提案責任者である本間先生 (IZEST/広島大) が阪大レーザー研のレーザー研シンポで特別公演にいらしたことから私と ELI との繋がりが生まれた.ちょうどこのときは上記の量子的真空ゆらぎで方程式を安定化させる方法を思いついた直後であり、いい機会だと思ってポスターセッションに参加していた.その会議で100近くあったポスター発表の中から本間先生は足を止めてくださり、ためしにELI-NPのパラメータをいくつか提供するので数値計算を試してくれないかと声をかけてくださった.これが契機となって私は ELI-NP における実験書の著者の一人となるだけでなく実際に ELI-NP へ移動する理由ともなった.


ELI-NP はルーマニアにある Horia Hulubei National Institute for R&D in Physics and Nuclear
Engineering (IFIN-HH) に新設される光部門で核物理をメインで取り扱うことになっている。一方で10PW と言う値のレーザーはレーザーを使った物理の理論屋には魅力的な非線形の量子場を調査できるのではないかと期待されており、それを2基も調達するELI-NPも当然この分野のフロンティア施設のひとつになる (他の ELI は10PWレーザーは1基しか導入されない).私の参加する実験エリアはこの2基のレーザーのみならず、併設される電子線LINACまでもが交差する実験ホールで放射の反作用の研究に関して言えばこれほど条件が整っているところは無いと確信している.


(2015/7/4:  この時点ですでに実験書の提出は完了済み)


そのような縁に後押しされてルーマニアに異動することを決意したわけだが、上記の提案の裏というかむしろ以下に述べることを知るための実験であるが理論研究にも進展があった.

一つはPTEP2014の論文の純粋な適応範囲拡張が割りと上手くできたことである。

Radiation Reaction in Quantum Vacuum


それに加えて高強度のレーザーに電子が触れたときには古典物理の計算結果からずれた値で光が輻射されるという事実を反映しなければならないと言う模型を2010年の時にはすでにSokolovと言う人が主張していた.この論文は後になってから存在を知ったのだが、彼の計算はいくつか代数上で少なくとも私には受け入れられない仮定を敷いていた.そこで自分が受け入れることができる範囲でSokolovと同じような計算結果を出せる方法は無いかと思考するようになった.彼の計算は古典物理の粒子の運動方程式にQEDで導いた輻射スペクトルを人工的に組み込むことで数値計算上はそれっぽいグラフを書けるようにするもので (もし違うと言う主張があればご教示いただけると幸いです) 少なくともフルLagrangianを解いて導かれたものでは無い.人工的にいれて良いならもっといい方法は無いだろうかと考えて思いついたのが以下のようなものである.


そもそも我々は電荷量や質量と言う値をユニークな定数値で定義できないのではないか ?


そう考えて電荷量と質量をフリーパラメータとして基礎方程式をすべて解きなおし最後の運動方程式のところで、仮にSokolovが言うようなスペクトルを電子が放つと仮定してフリーパラメータ関数を固定すると上手く彼の模型と計算が一致することが分かった !

今はQEDでの光輻射補正だけを考えているが、仮に未知の粒子との相互作用があった場合にもその相互作用の断面積さえ見つけることができればフリーパラメータを微修正して放射の反作用を含む運動方程式をアップグレードすることができる !

これが現状では最新の瀬戸謹製の放射の反作用モデルである.

Radiation Reaction in High-Intense Fields

2016年~ELI-NPでResearch Scientist

およそ上記を継続しています。

(近日、追記予定です。)

2022年~JAEAで研究員、2023年~研究副主幹